窒素循環を利用するアクアポニックス
アクアポニックスとは水産養殖と水耕栽培を合体させた産業の事で、比較的新しい農法です。
魚と植物(野菜)を同時に同じシステムの中で育てる事で収穫を得ます。それが可能になるのは、窒素循環という地球における生物の化学的な循環を利用するからです。
水中で魚のフンやエサの残りなどを微生物が分解、それを植物(野菜)が栄養として吸収します。植物に利用されたことで浄化された水が再び魚の飼育水槽に戻る、この循環のシステムがアクアポニックスです。
農薬や化学肥料を使用しないので、人にも環境にやさしいのです。
魚のフンで野菜が育つ、と聞くとちょっと汚いイメージを持つ人もいるかもしれませんが、野菜はフンをダイレクトに吸収するわけではなく、間に微生物が働いて分子の化学式の変換がもたらされています。まったく別の物質に変わっているので、魚のフンはもはやフンではありません!
安心! これが変換プロセスの化学式だ!
魚のフンやエサの残りなどの排泄物(尿素)から毒性あるアンモニア(NH3)が発生、水に溶けることでアンモニウムイオン(NH4+)となる ※イオン化すると弱毒
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水中の微生物 ニトロソモナス菌によってアンモニア、アンモニウムイオンが亜硝酸塩(NO2 ̄)に変化する ※猛毒性あり
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水中の微生物 ニトロバクター菌によって亜硝酸塩が硝酸塩(NO3 ̄)に変化する
※毒性さほど無し
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植物(野菜)が硝酸塩を栄養として吸収
上記のアンモニア、亜硝酸塩、硝酸塩を発生させ分解してゆくプロセスが、窒素循環です。
このプロセスを利用するのがアクアポニックスなのです。
この循環の途中に農薬は必要ないわけです。農薬を使えば魚も微生物も死んでしまいます。また、現代の一般的な化学農法で使用する三大栄養素(窒素 リン酸 カリウム)配合肥料などもわざわざ使用しません。微量元素などの補充が必要になった場合は、ミミズのフンなどを利用、pH調整、などで有機農法的に安全に対処します。
循環の化学式 このように表されます。
CO(NH2)2 尿素 + H2O 水 → CO2 二酸化炭素 + 2NH3 アンモニア
↓
NH3 アンモニア + O2 酸素 → NO2 ̄ 亜硝酸塩 + H2O 水 + H+ 水素イオン
↓
NO2 ̄ 亜硝酸塩 + O2 酸素 → NO3 ̄ 硝酸塩
※「さかな畑」さん発行 アクアポニックス実践マニュアル参照
もう魚のウンコじゃないんだっ!!
江戸時代の農法がまさしくこれ!
昔こういった肥溜めは畑の側にけっこうありました。気の毒なことに落ちた経験のある方もいるようです。
この肥溜めにも微生物の働きがあって、尿酸や有機物などが分解発酵の過程を経て、数年後には完熟有機肥料となります。
江戸時代ではこの有機廃棄物のリサイクルが主要な屎尿処理手段となっており、その後の安価で衛生的な化学肥料が普及するまで、長らく利用されていました。
肥溜めから有機肥料が作り出されるまでの工程にも、アクアポニックスで魚のフンが野菜に利用出来るまでの工程にも、「微生物が働いて窒素循環を起こすことで再び生物が利用可能になる無機窒素化合物を作り出す」という硝化作用が起きているのです。
(おまけ) 地上を循環している窒素
Wikipedia「窒素循環」より
窒素と聞くとまず思い浮かべるのは大気中の約78.08%を占める窒素分子のことですが、大気中ばかりではなく、アミノ酸をはじめとする多くの生体物質中に含まれており、地球のほぼすべての生物にとって必須の元素である、と解説されています。
原子番号7の元素で、元素記号 N nitrogen(ニトロジェン)またはニトロと呼ばれたりします。
この窒素が代謝と呼ばれる合成や化学反応によって無機になったり有機になったりして地上の生物、無機物間をぐるぐると循環しているのですねぇ…(感慨)
いやそれは違う…
↑上記化学式を含めたアクアポニックスについて詳しい勉強が出来る場所
→ アクアポニックスを学ぶ講座がある